犬は吠えるがキャラバンは進む / 小沢健二 : 渋谷系の王子様
久々のディスクレビュー3枚目は、最近復活を遂げた小沢健二氏のソロデビュー1枚目
- アーティスト: 小沢健二
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 1993/09/29
- メディア: CD
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犬は吠えるがキャラバンは進む / 小沢健二
このアルバムは、小沢健二と小山田圭吾のユニットFlipper's guitarの解散してから2年後の1993年に発表されたものである。 Flipper's guitarは渋谷系と呼ばれる音楽を代表するバンドの一つとしてよく参照される。 私はその当時生まれていないので詳しくはわからないが、お洒落な曲調、文学的な歌詞、そして中性的な二人の見た目から 若者や女性から人気を集めていたという。 音楽性的にはネオ・アコースティック*と呼ばれるジャンル)に始まり、ジャズやファンク、更には直近のUKロックに通じる 要素をも持っており非常に幅広く奥深い。所謂音楽オタクによる音楽であるが、一方で非常に取っつきやすいポップな側面も持っている。
とにかく、このアルバムはそんなFlippers' guitarから独立した小沢健二の第1作目だ。 小沢健二の音楽といえば2ndアルバムの『LIFE』などがより有名だし聞きやすい。 こちらもまたいつか取り上げたいが、今回紹介するのは『犬は吠えるがキャラバンは進む』という、 何とも意味深なタイトルのアルバムだ。
これは実は中東の諺で、言葉通り「犬に吠えられたところで隊商は進む」という意味だ*1。 一般人に当てはめるならば「周りからの批判や意見があろうと、人生や生活は進み続ける」 といったところだろうか。 彼はあまり人の目を気にしないという旨の発言をしている*2ので、恐らくそのような心意気がこのタイトルに現れているのだと思う。
総評
さて、事前の話が長くなったがアルバムの紹介をしよう。 全8曲のこのアルバム、キラーチューンというような曲は無いと思う。 小沢健二は全く暗い人間ではないと思うが、このアルバムは少し暗い印象を抱く。 これは多分、主に次の要因によるのだと思う。
収録曲はAメロ-Bメロ-サビというJポップ的な構成ではなく、 Aメロ-サビ-Aメロ-サビ-Bメロ-...という古いポップスの構成である
(個人的には)全体的にドラムとベースが強く聞こえる
歌詞が一聴しただけでは意味が取り辛いものである
このような特徴があるので世間一般に「これぞ!」というアルバムにはなり辛い。 しかし、私はこのアルバムが好きだ。 ノれる曲からしんみりとした曲まであって全体としてバランスが良いということと、 多分Flipper's guitarを解散した小沢健二 の衝動のようなものが感じられるからだと思う。
また小沢健二の音楽の特徴の一つだが、基本的に言葉の数が多い。 これは持論だが、言葉の数が多いと曲に表情が生まれると思っている。 つい口ずさんでしまいたくなるというのもこのアルバムの特徴だろう。
おすすめな人
渋谷系という音楽に興味を持っている人
ヘタウマな歌が好きな方
自分は音楽の趣味が良いと思っている人
Pick up
ローラースケート・パーク
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アルバムの最後を飾る1曲。 初めにベースとドラム、電子オルガンによる繰り返しパターンがあり、 警戒なリズムでありながら暗い雰囲気の中曲は始まる。 のっぺりとサビに入るとリズムに乗った軽快な口調で
ありとあらゆる種類の言葉を知って何も言えなくなるなんてそんなバカなあやまちはしないのさ
と意味深に語る。Flipper'sを解散することになった自分への戒めかもしれない。 個人的には非常に同意出来る内容で、アルバムタイトルを表しているフレーズである。 こんな硬い言葉を軽快なリズムに乗せられるというのはまさに彼の手腕のなすところでは無いかと思う。
そしてBメロに相当する部分は徐々に下がっていくツーファイブワン*3 の連続で、私の好きなコード進行である。そこで彼は
意味なんてもう何も無いなんて 僕が飛ばしすぎたジョークさ
と歌う。 「意味なんてなにもない」という「いなし」それ自体をジョークだと言ってのけている。 このような言葉自体を分析すること自体、真面目すぎる感じがして嫌になってくる。。。笑 ここまで色々書いておいて何だが、結局は音楽自体を「何となく良い」 と思っている気持ちを大事にしていたい。
小沢健二について書くのは非常に気が入ってしまうが、このアルバムは気を抜けて聞ける。 良く噛んで味のわかるスルメのようなアルバムだが、是非聞いてみていただきたい。 それではこのへんで。
*1:これは"the dogs bark, but the caravan goes on"とかで調べれば出てくる。
*2:引用: https://www.fujitv.co.jp/TKMC/BACK/TALK/ozaken_34.html
*3:詳しくは解説しないが、ちょっと不安な感じ→不安な感じ→安心する感じという伴奏の展開で、王道のコード進行。